現代の製造業界は急速に変化しており、柔軟性と効率性が求められています。
中小企業が持続的に成長するためには、リソースを効率的に活用し、他社との協業・共創が不可欠です。
今回のイベントでは、そんな製造業の課題を解決する糸口として、新協電子株式会社 代表取締役社長 中西 英樹 氏 に、ファブレス経営というビジネスモデルをご紹介頂きました。
ファブレス経営とは工場を持たない経営の形のこと。
例えば、急な受注増加時には外部協力企業と連携し、生産ラインを迅速に拡張ができます。一方で需要が減少した製品は即座に生産を調整し、リソースを他製品へ再配置するなど、工場がないことで、柔軟な製品開発を進めることができる点が強みです。
第1章:新協電子株式会社の会社概要と事業内容
新協電子株式会社は、1964年創業以来、社会インフラを支える電子機器を開発・提供してきた企業です。
特に鉄道、防災無線、放送素材伝送分野において、高精度な「VoIP音声・制御伝送機器」を開発し、
長距離通信の遅延やノイズを最小化する技術が高く評価されています。
また、大規模災害時には即時情報伝達が可能な防災システムを構築し、通信の途絶を防止。
経営面では「少量多品種生産モデル」を導入し、顧客ごとに最適化された製品を短期間で提供する仕組みを構築しています。
これにより、変化の激しい市場にも柔軟かつ迅速に対応できる体制を確立しています。
経営理念とビジョン
• ビジョン:伝送・制御技術を発展させ、社会インフラ構築に貢献する。
• ミッション:電子回路設計・組込ソフト技術を駆使し、お客様の要望にきめ細かく対応する。
• 価値観:社員一人ひとりが仕事に誇りと喜びを持ち、それが顧客満足度向上につながる。
主な製品と技術
• VoIP音声・制御伝送機器:鉄道運行の無線通信で使用され、電波の中継や音声制御を担う。
• ハイビジョン光映像伝送機器:原子力発電所や高速道路の監視カメラシステムで映像伝送を担う。
• 自動運転モーター制御装置:搬送車両の自動運転を可能にするモーター制御基板。
• 組込Linuxボード:高精度なデータ処理を行うための組込型制御装置。
具体的な事例紹介
• 鉄道無線システム:各路線で採用されており、各鉄道区間で無線通信を安定させる役割を果たしています。
• 監視システム:電波中継設備に組み込まれ、垂直方向への電波伝送を可能にしています。
• 防災システム:自然災害時に即時情報伝達を可能にするIP伝送装置。
経営スタイル
新協電子は「ファブレス経営」を採用し、自社では設計・開発に特化し、生産は外部協力企業に委託しています。
このスタイルにより、固定資産の負担を抑えつつ、高品質な製品提供を実現しています。
社員構成と組織体制
• 設計・開発者:44%
• ソフト開発者:24%
• 検査・調整者:14%
• その他:18%
新協電子の強みは「社員の技術力とアイデア」にあり、全員が新しい技術や製品開発に積極的に取り組んでいます。
第2章:ファブレス企業のメリット・デメリット
実際にファブレス経営を行っている新協電子株式会社の事例を元にファブレス経営のメリット・デメリットについてお話頂きました。
メリット
設備投資が少なく、開発・研究・育成に資源を集中できる
・社内で必要なものはPCや開発に必要な一部の製品や、
毎月の電気代なども10万円ほどで、設備投資が少ない。
・残ったリソースで社員教育に力を入れられる。
試作、他分野へのチャレンジのハードルが低い
・自社で生産設備を用意しない為、参入、撤退の判断が比較的容易。
・製造工程を全て外部に任せている為、開発会社として常にマーケティングや
新商品開発に注力できる。
時代の変化に対応しやすい
・製造した製品が新技術、新製品に取って代わられた際の撤退の判断が容易。
製造設備を用意している場合は撤退の判断が難しいが、ドライにできる。
デメリット
製造ノウハウが社内に残らない
・製造会社がなんらかの理由で撤退、変更になった際に品質を維持することが困難。
・ノウハウがまったく残っていないため、自由なタイミングに製品を製造することが難しい。
製造不具合が発生した時の対応に問題
・流通した製品に不具合が発覚した場合の回収、
修正などのイレギュラー対応が委託先によっては非常に嫌がられる為対応が困難。
委託先の管理(価格と品質バランス)
・撤退、倒産など品質を満たす製造先に値上げをされた場合も頼らざるを得ない。
・撤退、倒産した場合に代わりとなる製造先を見つけ出すことが困難。
第3章:オープンイノベーションと新規事業への挑戦
新協電子は、オープンイノベーションを積極的に推進し、他企業や研究機関との連携を通じて新たな技術や製品開発に取り組んでいます。
具体的な取り組み事例
1.自動運転モーター制御技術
・自動搬送車両の精密なモーター制御を実現する基板を開発。この基板は、左右の車輪モーターの回転数を独立して制御し、
搬送車両が障害物を自動で回避しながら目的地に正確に到達することを可能にしています。
さらに、モーター制御プログラムにはAIアルゴリズムが組み込まれ、稼働中の環境データをリアルタイムで分析し、
最適な経路や速度を自動で調整します。
・具体例として、工場内の無人搬送システム(AGV)に採用され、稼働効率が30%向上。
従来手動で行っていた搬送作業が完全自動化、搬送ルートの最適化により1回あたりの搬送時間が平均20%短縮されました。
2.IoT振動センサー
・圧電センサーを活用し、設備の振動データをリアルタイムで取得。
このセンサーは、生産ライン上の機械装置に取り付けられ、微細な振動の変化を高感度で検知します。
例えば、モーターやギアボックスに異常な振動が発生した場合、そのデータは即座に中央管理システムに送信され、
異常の早期発見と迅速なメンテナンス対応が可能になります。
さらに、過去のデータと比較することで故障の予兆を分析し、
計画的なメンテナンスを実施することでダウンタイムを大幅に削減しています。
・特にある工場では振動センサーの導入により、年間50件以上の重大な故障を未然に防ぎ、
保守コストが大幅に削減されただけでなく、生産ラインの停止時間が年間300時間短縮される成果が得られました。
3.インカムトランシーバー
医療現場や大規模工事現場での確実な音声伝送を実現。
例えば、手術室内では医師や看護師同士の迅速かつ正確な音声伝達が求められますが、
新協電子のインカムトランシーバーは高いノイズ低減性能により、機械音や外部騒音に影響されずクリアな音声を維持します。
また、大規模工事現場では長距離間での通信が必要ですが、
電波の減衰を抑える技術により安定した通信が確保され、
現場監督者が複数の作業員と同時にコミュニケーションを取ることが可能になりました。
これにより、作業ミスの削減や緊急時の迅速な対応が実現できています。
4.産業用IoTデータロガー
工場の稼働データを蓄積し、AI解析により生産性を向上。
具体的には、生産設備や作業員の稼働時間、エネルギー消費、製造プロセスの各段階におけるデータをリアルタイムで収集・分析します。
例えば、機械ごとの稼働時間や停止時間を可視化し、ボトルネックとなる工程を特定することで、
ライン全体の稼働効率が平均25%向上しました。
また、AI解析により、生産スケジュールの最適化が可能となり、急な注文変更や短納期要請にも柔軟に対応できる体制を整えることも可能です。
データ活用でライン停止回数を50%削減。
具体的には、過去3年間の生産データを基に、設備ごとの停止原因を詳細に分析し、
頻発するトラブル箇所に対して事前保守を徹底しました。
成功要因
• 他社技術との積極的な連携
新協電子は大手メーカーや研究機関と共同開発を行い、自社技術だけでは解決できない課題に取り組んでいます。
例えば、自動運転技術の開発では、AIアルゴリズムに関する知見を持つ大学研究機関と協力し、障害物回避技術を高度化しました。
• 小規模な試作と反復改善の実施
製品開発の初期段階で小ロット生産を行い、実地テストを通じて改善点を洗い出し、
迅速にフィードバックを反映するサイクルを構築しています。
例えば、自動運転モーター制御装置は3回の小規模試作と実証実験を経て、性能向上とコスト削減を同時に達成しました。
• 顧客ニーズに応じた柔軟なカスタマイズ対応
顧客ごとの特定の要件に応じて製品仕様を変更し、個別のカスタマイズを行っています。
例えば、ある鉄道会社から「緊急時に即座にシステムがリセットできる機能」を求められた際には、
制御基板にリセットボタンを追加し、運用手順に合わせたファームウェアを独自に開発しました。
別の事例では、医療現場向けのインカムトランシーバーで特定の周波数帯域に対応するカスタマイズを実施し、他の機器との干渉を防ぐことでクリアな音声伝送を実現しました。
これらの柔軟なカスタマイズ対応により、顧客満足度が向上し、長期的な取引関係の構築にもつながっています。
第4章:まとめ
新協電子株式会社の取り組みや、ファブレス経営による製品開発の実例についてお話をいただきました。
本イベントでお話しいただいた成果は、
新協電子が高度なノウハウと協力企業との連携を通じて実現することができた成功事例と言えるかと思います。
新協電子株式会社の事例をヒントに、皆様の企業経営にも新たな可能性を見出してみてください。
新協電子株式会社 代表取締役社長
中西 英樹 氏
- 1962年10月生まれ、三重県出身。
- 工学院大学卒業後、富士通(株)に就職。
- 同社でシステム開発環境等のソフトウェア製品開発に従事、マネジメント職の経験を積んだのち、 2004年に新協電子株式会社に入社。
- 取締役を経て、2010年代表取締役に就任。
今後もOiF八王子館では様々な企画をご用意しております。
多摩地域等の中小企業の皆様にとって有益な情報を得られる場にしてまいりますので、今後もぜひご参加ください。