日本全国で江戸時代から続く工芸品である 曲げわっぱに目をつけ、多摩地域の木材を用い、新しい東京の工芸品として「東京曲げわっぱ」を開発した木工房 三澤主宰 三澤正孝氏をお招きし、地域の力を活かした製品づくりについてお話しいただきました。
1章.自己紹介
三澤氏は大学卒業後、家具製造・家具メーカーなど木工に携わる仕事に従事、2016年には木工房三澤を八王子に設立しました。
その後、地元の職人やアーティストと連携して、多摩産材を活用した「東京曲げわっぱ」を開発しました。
三澤氏が多摩産材活用の重要性を再確認するきっかけとなったのは、眼科で出会った親子の会話でした。
3歳くらいの小さな子供が花粉症で通院している姿を見て、こんな小さな子供が苦しんでいる現実に愕然としました。木工を生業にする人間として「林業」から変えていかねばと考え、多摩産材を使った試作品開発に取り組むようになりました。
2章.東京曲げわっぱの誕生
東京曲げわっぱは、多摩産材を活用して誕生した新しい形の木工製品です。
この製品は、地域の森林資源であるヒノキを活かし、伝統的な曲げ加工技術を応用して製作されています。たとえば、杉材を使った初期の試作では、木材の厚みが5mmでは曲がらず、試行錯誤の末に厚みを調整することで、曲げ加工を安定化させました。さらに、現代のライフスタイルにマッチするデザイン性を加えたことで、伝統と革新が調和した製品となりました。
木材へのこだわり
木はそれぞれが独特の風合いや香りを持っています。多摩産材の特徴として、加工性が高いことや耐久性があることが挙げられます。
東京曲げわっぱは東京の木・多摩産材認証材のヒノキを100%使用した製品であり、東京の山が抱える問題に着目しています。
曲げわっぱに使用されているヒノキは良くても樹齢50年程度で、第二次世界大戦後の住宅需要を見越した植林事業で植林された木々がほとんど、花粉をたくさん飛散する世代の木なので、あえてその世代の木を使って製品をつくっています。
3章.地域人材とのコラボレーション
染工房かほりさんとのコラボレーション
東京曲げわっぱの開発には、八王子の伝統工芸士である染工房かほりさんとの協力が大きな転機となりました。手差し型染め技法を駆使し、製品を開発しました。このコラボレーションから生まれたのが、型染めのデザインを施した「東京曲げわっぱ 桑都八王子物語」です。手作業で染め上げられる模様は、製品一つ一つが異なる表情を持つため、非常に個性的で魅力的なものとなっています。
高校生グラフィックアーティストとの出会い
その後、地元の高校生グラフィックアーティストSaoriさんとのコラボレーションにより生まれた「東京曲げわっぱ Hachioji Art Style」を発表しました。特に、ボールペンを使用した繊細な線画は、購入者から高い評価を受けています。製品の一つ一つに手作業によってアートが施され、独自の個性を持つ商品として完成しました。
4章.商品開発の流れ
商品開発は、素材の選定から加工、デザインまで細部にわたる試行錯誤の積み重ねでした。
たとえば、曲げ加工では、木材を柔軟にするために水に浸す工程が必要です。
その後、最適な状態の木材を1枚ずつ曲げて加工を施し、形状を固定するためにさらに2週間かけて乾燥させています。
染色や描画の工程では、木材の吸湿性に対応した技術開発が求められました。
たとえば、型染め技法では、木材表面に適した染料を選定し、浸透の深さを制御するための特別な試作を重ねました。「Hachioji Art Style」の繊細な線画は通常のガラスコーティングではにじんでしまいました。
にじみを防ぐために調整を重ね、安定した品質を実現しました。
商品開発は、素材の選定から加工、デザインまで細部にわたる試行錯誤の積み重ねでした。たとえば、曲げ加工では、木材を柔軟にするために水に浸す工程が必要です。その後、最適な状態の木材を1枚ずつ曲げて加工を施し、形状を固定するためにさらに2週間かけて乾燥させています。
5章.東京曲げわっぱによる成果、反響
東京曲げわっぱを地元イベントや展示会でも発表し、八王子市のふるさと納税返礼品に採用されました。
また、染工房かほりさんとのコラボレーションで生まれた「東京曲げわっぱ 桑都八王子物語」は、独自の型染めデザインで購入者から高い評価を得ています。一方、高校生アーティストとの協働により発表された「Hachioji Art Style」は、若い世代の感性を取り入れたユニークな商品として関心を集めています。
さらに、2023年にはNHKの「首都圏ネットワーク」や「おはよう日本」、東京新聞など多くのメディアで紹介され、そのストーリー性について取り上げてもらいました。
まだ言えないのですが、多摩産材を用いた製品ということで紹介いただく予定もあるので、是非SNSを確認してください。
6章.八王子における共創の可能性と今後の展望
八王子は中核都市でありながら、自然との距離が近くバランスがとれている街だと考えています。中小企業の数も多いので、まだまだ企業同士のコラボレーションができる余地があるのではないでしょうか。
今後の展望としては伝統工芸士の待遇を改善できないかということを考えています。 伝統工芸の技術を世界にも発信して、適正な価格で評価してもらうことを目指していきたいと思います。 また、出身校とのコラボレーションでデザインプロジェクト演習という講義をさせていただく機会がありました。学生さんに「東京曲げわっぱ」の側面をデザインしてもらい、プレゼンをしてもらいました。学生とのコラボ製品として、クオリティを上げ発表していきたいです。
終わりに
最後は質疑応答のお時間、営業の方法や、新しい製品の開発、今抱えている課題についてなどたくさんの質問がありました。
正直今もなお課題しかないと語る三澤氏。商品づくりの際は自分以外の人間は所詮外野になってしまうし、100%の顧客に受入れられる製品は作れないと思っています。でも、気に入ってくれる人が必ずいると信じて突き進んできたので、これからもわき目も振らず突き進むことが目の前にある課題を解決することに繋がると考えています。
全く新しい商品をゼロから作り上げてきた三澤氏だからこそできる想いのこもったお話を伺うことができました。多摩地域や八王子の持つ魅力や人材を活かした製品開発の実例を是非参考にしてみてください。
木工房 三澤 主宰
三澤 正孝 氏
今後もOiF八王子館では様々な企画を
ご用意しております。
多摩地域等の中小企業の皆様にとって有益な情報を得られる場にしてまいりますので、
今後もぜひご参加ください。