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『工場を、誇ろう。』プロジェクトに学ぶブランディング戦略


2月1日(土)に実施したイベントの内容をお届けしています。気になっていたけど申し込めなかった、
OiFってどんなイベントをやっているのか等、気になる方は是非ご一読ください。


はじめに

日本の製造業は、戦後の高度経済成長を牽引し、「日本品質」というブランドを確立してきました。しかし、近年のグローバル化や人材不足の影響により、多くの中小企業が苦境に立たされています。特に、製造現場で働く人々の環境や待遇が軽視されがちで、「3K(きつい・汚い・危険)」というネガティブなイメージが根強く残っています。

株式会社コプレック 代表取締役社長 小林氏の『工場を、誇ろう。』プロジェクトは、そうした状況を打破し、工場で働く人々の価値を最大化するための取り組みです。本イベントでは、このプロジェクトが生まれた背景から具体的な施策、そしてその成果について詳しくお話しいただきました。


1.このプロジェクトに取り組み始めたきっかけと課題背景


株式会社コプレックは1958年に創業し、現在は精密板金加工を手掛ける企業です。しかし、かつては自動車部品の大量生産を主軸としており、グローバル化の波に押され、低価格競争に巻き込まれました。その結果、大幅な減益を経験し、経営の方向性を転換する必要に迫られました。

新たな道として「多品種少量生産」にシフトしたものの、現場の組織づくりや工場環境の改善が課題として残りました。従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保が急務であり、「工場の在り方を根本から見直す」ことが求められていました。


2. 『工場を、誇ろう。』という企業理念はどのような想いから生まれたのか


ただ機械を使った加工技術だけでは資本の大きい大企業やメーカーと渡り合えないという危機感から、徹底した「オペレーションの差別化」で、模倣困難な技術を持つ組織を作ることを目指してきました。
従来、製造業においては「コスト削減」が最優先され、作業環境の快適さや社員の働きがいが後回しにされる傾向がありました。しかし、ある日従業員が人生の多くを過ごす工場がこんなに暗くてよいのだろうかと思い、人に寄り添い、従業員が真に誇れる工場をつくることを目指して、人的投資と環境づくりを推進しました。


3.具体的な取り組み


(1) 環境整備活動の徹底

コプレックでは、毎日20分間の「環境整備活動」を実施し、工場の美化を徹底しました。ただの清掃活動ではなく、「汚れた場所と綺麗な場所の差を際立たせる」ことで、清潔な状態を維持することを重視しました。その結果、社員の意識が変わり、整理整頓が自然と身につくようになりました。

(2) デザインによる魅力づくり

アート・研究開発・ブランディングなど領域を限定せずに様々なクリエイティブワークを行う(株)コネルと共同で会社のロゴやホームページ、‘Blue Book’と呼ばれる経営方針・マニュアルのデザインを統一し、工場のデザインも一新しました。 工場全体はわかりやすく統一感のある配色(人は青、道具は赤、場所は黄色、全体はグレー)を施すことで、整然とした工場をつくっていきました。

(3) 社員のスキルアップ支援

3Dプリンターやレーザーカッターを自由に使える環境を提供し、業務以外のものづくりも推奨。さらに、希望者にはPythonやAI技術の研修費を全額負担し、社員のスキルアップを支援するなど、意欲のある社員には積極的に学ばせる体制を整えました。

(4) プライドを高めるための施策

工場内のトイレをホテル並みに綺麗にし、社員が快適に働ける環境を整備。 また‘Silver Book’という工場と従業員の写真集を作成し、視覚的に魅力を伝えています。

これらの施策を進める上で、大切にしている要素として、従業員の知の具現化、家族からの尊敬があります。効率化を求めるうえで、ルールマニュアルの順守は必要ですが、新しいものを生み出すには「自由な発想・遊び心」が重要です。 3Dプリンターで自由に使える遊べる場をつくることで、社員が自主的におもちゃや、便利グッズのようなものづくりを行い、3Dモデリングやプリンターの知識を自然に仕事にも活かすようになりました。


4.取り組みへの反響や成果

こうした取り組みの中で、特に苦労したのは「社内の意識改革」でした。長年の慣習を変えることは簡単ではなく、最初は社内でも反発がありました。しかし、地道な積み重ねが功を奏し、徐々に社員の意識が変わり始めました。

コプレックの取り組みは、業界の内外からも大きな注目を集めました。

• 応募者数が2年間で3.5倍に増加
• TV、新聞、雑誌、Podcastなど各種メディア掲載
• グッドデザイン賞2024、日経クロストレンド BtoBマーケティング大賞 受賞

「人的投資」が企業の成長に直結することを証明し、業界の外からも高い評価を得ることができました。


終わりに

『工場を、誇ろう。』プロジェクトは、人的投資によって、働く人の誇りを取り戻し、製造業の未来を切り拓く取り組みです。お金がかかる、と思われがちですが、当プロジェクト最初の一歩は薄暗かった工場の照明をつけることでした。

「ものをつくる人のプライドを高め、掛川から製造業界全体の地位をポジティブに上げていく。」

この考えのもと、製造業がかっこいいといわれる社会を目指して、コプレックの挑戦は今後も続いていきます。


最後は質疑応答、交流会を実施いたしました。交流会では人的投資の適正額はいくらか、人的投資の成果について説明するにはどうしたらよいかという観点で議論が交わされました。
本イベントが、皆様にとって、新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。



株式会社コプレック 代表取締役社長
小林 永典 氏















今後もOiF八王子館では様々な企画をご用意しております。
多摩地域等の中小企業の皆様にとって有益な情報を得られる場にしてまいりますので、
今後もぜひご参加ください。


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