はじめに
2025年8月26日、オープンイノベーションフィールド多摩八王子館にて、「中小企業がオープンイノベーションについて知っておくべきこと」セミナーが開催されました。講師として、チューリヒ大学で博士号を取得し、複数の日系・外資系化学メーカーでのオープンイノベーション活動に従事した経験を持つ羽山友治氏をお迎えし、中小企業の経営者や新事業開発担当者を対象に、オープンイノベーションの実践的な活用方法をお伝えいただきました。
1. オープンイノベーション活動の基本理解
オープンイノベーションの定義と効果
オープンイノベーションとは平たく言えば「外部を活用するという考え方」を指します。企業内のリソースだけでなく、内部と外部の組み合わせが検討できるなら、選択肢が増えることで生産性の向上が期待できます。
• イノベーション創出の難易度上昇
• 有用な外部知識の増加
• 外部知識の探索の容易化
オープンイノベーション活動は、そのコストパフォーマンスの高さゆえに、手段として採用する価値があり、最終的に企業の業績向上につながることが海外の事例分析からも明らかになっています。
WFGMモデル(Want, Find, Get, Manage)による体系的アプローチ
オープンイノベーション活動を効果的に推進するための実践モデルとして、WFGMモデルが 挙げられます。このモデルはオープンイノベーションのフレームワークです。
各フェーズをそれぞれWant、Find、Get、Manageの4つの段階にわけ、必要なアクションを明確にし、成功する協業プロジェクトを実現するための手順を整理したものです。
• Want(探索ニーズの収集):特定のシーズを持った協業パートナーを探索したいという要望の明確化
• Find(協業パートナーの探索・選定):社内→国内→海外の順で段階的に探索
• Get(協業条件の交渉):短期契約から始めて段階的に関係構築
• Manage(協業プロジェクトの実行):継続的なコミュニケーション管理
2. 具体的な実践手法の紹介
コーポレートベンチャリング
「対象をベンチャー企業に限定したオープンイノベーション活動」として定義されるコーポレートベンチャリングでは、ベンチャー企業は資金よりも最新のツール・技術・チャネル・顧客へのアクセスに期待しているという重要な指摘がありました。従来の時間と手間を要する株式ベースのアプローチから、出資なしの軽量モデルへの移行が進んでいます。
特に注目されたのは「ベンチャークライアント」という手法で、戦略的利益を目的としてベンチャー企業の製品・サービスを開発の初期段階で購入・利用するアプローチです。コーポレートベンチャーキャピタル やアクセラレータプログラムよりもリーズナブルで、WFGMモデルと相性が良いとされています。
ユーザーイノベーション
「イノベーションの源として、ユーザーを生産者と同程度もしくはより重要なものとしてとらえる考え方」として紹介されました。「情報の粘着性」の問題を解決でき、最も獲得が難しいニーズに関する情報が得られる点で重要な取り組みとなります。直接の顧客だけでなく、エンドユーザーにも注目する必要があることが強調されました。
3.中小企業における実践のポイント
組織体制と人材要件
オープンイノベーション活動を成功させるためには組織体制の構築が重要です。
• 担当者の配置:探索や協業のノウハウを蓄積していくため、1人でよいので専属(または兼務)の担当者を配置
• 適任者の特徴:社内で鍵となる人々から信頼されていて、課題解決が好きで、幅広い興味を持つ人
• 必要なスキル:課題解決コンサルティング力と手法・仲介サービスの活用力
推奨ツールと活動方針
中小企業に特に有効なツールとして以下が紹介されました。
• 専門家紹介サービス:スポット相談や数ヶ月単位でのプロ人材起用
• 公的仲介サービス:無料で利用できるJ-GoodTechなどの徹底活用
• デジタルアプリケーション:SNSや生成AIを活用した製品・サービスの売り込み
活動の進め方としては、最初から重要度が高い課題に取り組むか、経験値を積む目的で簡単なものを選ぶかは企業の判断に委ねられます。
よくあるアプローチとしてはDXによるビジネスプロセスの効率化や特定ノウハウを持った人材の活用などが具体例として挙げられます。
まとめ
講師からは最後に、「中小企業は大企業に比べ適応性が高いといえ、事業機会を捉える上で、大企業よりもオープンイノベーションの恩恵を受ける可能性がある」との心強いメッセージをいただきました。
重要なのは、オープンイノベーションを単なる流行語として捉えるのではなく、WFGMモデルに基づいた体系的なアプローチにより、自社の事業戦略と整合性のとれた外部連携を実現することです。
中小企業においては、限られたリソースを最大限に活用し、まずは小さく始めることがより求められるかと思います。
当セミナーがその最初の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
羽山友治氏
- 略歴:
- 2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了
- 複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて,オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事
- 戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ
- 著書:
- 「オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド」(角川アスキー総合研究所)
- 連載記事:「オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド」(ASCII STARTUP), 「羽山友治の【新規事業が動く思考スイッチ】」(ASCII STARTUP)
今後もオープンイノベーションフィールド多摩 八王子館では多摩地域の中小企業の皆様にとって有益な情報を届けてまいりますので、足をお運びください。