良いものを作れば売れる、というのは過去の話。
いくら良い技術や製品を持っていても、ターゲットやコンセプトの設定などの戦略がなければ簡単には売れません。
初代G-SHOCKのデザイナーである二階堂隆氏に登壇いただき、B2CおよびB2Bの両分野にわたり、見た目のデザインだけでなく戦略がいかに企業のブランド価値を高めるかを、事例を通してお話ししていただきました。
■講師紹介
Erg Design 二階堂隆氏
・1980年3月:多摩美術大学 プロダクトデザイン科 卒業
・1980年4月:カシオ計算機 株式会社 デザイン部にプロダクトデザイナーとして勤務
G-SHOCKプロジェクトチームに参加 製品デザイン、ネーミングを担当
・1983年〜1984年:海外派遣/イタリアミラノにてデザイン事務所「デパス・ドルビノ・ロマッツイー」に参加
・1987年〜:エルグデザイン設立 フリーランスデザイナーとして活動
・1990〜2015年:日本工学院 八王子専門学校 プロダクトデザイン講師
・2007年〜:東京商工会連合会 エキスパート:プロダクトデザイン専門家
・2008〜2018年:産業技術研究センター商品企画基礎講座講師
・2010年5月〜:品川区主催「メードイン品川」製品選考委員
・2012年〜:首都圏活性化協会(TAMA協会) 商品開発支援及びコーディネーター
・2021年〜:関東経済産業局 チーム伴走型知材経営モデル支援事業参加
■プログラム
1.プロダクトデザインの役割と目的
2.自社製品のブランディングに必要なこと
3.中小企業のプロダクトがマーケットで優位に立つためのデザイン戦略とは
4.最後に
1.プロダクトデザインの役割と目的
プロダクトデザインは、製品の外観を整えるだけではありません。むしろ、製品が顧客にとって価値ある存在となるよう、見た目、機能、ユーザー体験を統合する役割を果たします。
デザインが果たす具体的な目的は以下の通りです
・顧客の期待を超える製品価値の提供
機能性や利便性だけでなく、感情的な満足感も含めて顧客に価値を与えます。
・市場での差別化
同種の製品があふれる市場で、自社製品が選ばれるためにユニークなデザインやアイデアを創出します。
・使用体験の最適化
ユーザーが直感的に製品を理解し、使いやすいと感じる設計にします。
製品のデザインは、製品を手にとる人々に他の製品にない価値や見た目以上の本質を伝える力を持ちます。
2.自社製品のブランディングに必要なこと
今回のセミナーの中核をなしたテーマの一つがブランディングの本質です。
「ブランドとは顧客への約束と信頼である」という講師の言葉が印象的でした。
その中で、自社製品のブランディングを成功させるために必要な「ブランドの3つの構成要素」についてお話しいただきました。
【プロダクトアイデンティティ(Product Identity)】
製品そのものの独創性やオリジナリティ。
例えば、特定の問題を解決するユニークな機能や、顧客に新しい価値を提供する製品設計のことを言います。
これは他社製品との差別化ポイントを明確にします。
【ビジュアルアイデンティティ(Visual Identity)】
ロゴ、カラースキーム、パッケージデザイン、名刺やユニフォームなどの視覚的要素。
見た目だけで信頼や品質を感じさせる設計が重要となります。
【コミュニケーションアイデンティティ(Communication Identity)】
顧客対応、クレーム対応、ホームページの分かり易さ。
問い合わせやクレーム対応が迅速かつ丁寧であれば、顧客満足度は高まります。
何より重要なのは「品質の高さ」と二階堂さん。品質が伴わなければどんなブランドも存続できませんし、
どんなに優れたデザインや広告戦略も効果を持ちません。信頼を築くために、常に品質を最優先とし、その上で一貫性のあるビジュアルやコミュニケーションを設計することが必要となります。
3.中小企業のプロダクトがマーケットで優位に立つためのデザイン戦略とは
二階堂さんは数々の製品デザインを手がけてきましたが、その中から挙げていただいた3つの成功事例は、中小企業が製品開発を進めるうえでの現実的な戦略を示していました。
(1)短距離計測器「マジラン」
陸上部のスプリンターだった依頼元の社長が、高校時代の経験から「あったらいいな」と実感したことから発想。自社が持つ設計技術を活かせばその製品を作れるのでは?と思ったことが動機となりました。自社で試作品を作ってみたもののこのまま売るのは難しいと思い、二階堂さんがデザインしなおして量産化したところ、プロのスキーヤーから練習で使いたいと受注につながったそうです。
試作と量産は別物として考え、製品化するのであればユーザーの使い方を想定したデザインにすることが大事です。
(2)福祉用具「らくらくテーブル」
高齢者や車いすで生活される方が食事する時、テーブルの高さが調整できるといいよね、という現場職員からの意見と、食事がおいしそうに見えて楽しいイベントになるようにしたいという思いを集約して開発。パイプなどの構造物が見えないように設計を調整しながらデザインをすすめて完成させました。現場から出てくるいろんな要望に小回りが利くのも中小企業が製作することの強みですね。
とはいえ、社長はいたずらにラインナップを増やすのではなく、テーブル専門店としてのバリエーションを増やしながらブランドを浸透させていく戦略をとっているそうです。
(3)浴室用具「詰め替えそのまま」
日常生活の不満を解決することで、利用者から高い評価を得た事例です。
もともとは社長がシャンプーのポンプに詰め替え液を補充するときに「手間もかかるし、何とかならないか」と感じ、「詰め替えるのではなく、詰め替え用パックをそのまま使えるようにすればよいのでは?」という発想から生まれました。
何度も試作を重ねて販売はしたものの、設計に欠陥があって壊れてしまう状態で、どんどん返品されてきてしまったそうです。
その時にこの企業が取った対応が改良商品との無償交換でした。この対応によって、顧客との「約束と信頼」の関係が構築されました。
欠陥を出さないことがベストではありますが、不具合があった後の対応次第で顧客がさらにファンになる一つの事例ですね。
また、製品開発やマーケティング費用を抑えるために公的機関の補助金や助成金を活用することも有用です。
補助金を活用して開発したという事実は、企業にとってその成果をアピール材料にすることができますし、市場から安心材料として信頼性の面で評価を高めることも可能です。
4.最後に
お話しいただいたデザイン戦略や成功事例は、単なる理論にとどまらず、実践の結果として得られた知見です。デザインの役割は単なる装飾ではなく、顧客との信頼を築き、ブランドとしての価値を高めることにあります。本セミナーで取り上げられた内容は、どれも実践的ですぐに取り入れられるものばかりでした。
中小企業が市場で優位に立つためには、品質を基盤とした独創的な製品アイデアと、それを支える強力なブランディングが不可欠だということが良く理解できました。
今後もOiFでは、様々な内容のセミナー、イベントを企画してまいります。皆様のご参加をお待ちしております。