「何から始めればいいのか分からない」に応える場として
2026年2月17日、オープンイノベーションフィールド多摩 八王子館において、「中小企業のためのゼロカーボン実践相談会」が開催されました。本イベントは、1月に実施されたセミナーの内容を踏まえ、脱炭素への取り組みを具体的な行動につなげることを目的とした実践的な相談の場です。
参加したのは、自社の温室効果ガス排出対策に課題を感じている多摩地域の中小企業経営者や管理職、資材調達担当者、店舗責任者など、業種も立場もさまざまな事業者でした。製造業の工場、建設業の資材調達、運輸業の車両、小売・飲食業の店舗と、排出の発生源は異なりますが、「何から始めればよいか分からない」という悩みは共通しています。
本イベントは、その問いに対して現実的な答えを提示することを目指し、前半は基礎理解を深めるセミナー、後半は個別の課題に向き合う相談会という二部構成で行われました。
セミナーパート
脱炭素は遠い将来の話ではない
講師はまず、脱炭素が環境意識の高い企業だけの取り組みではなく、事業を続ける上で避けて通れない経営課題になりつつあることを説明しました。
欧州を中心に環境規制が強化され、炭素国境調整措置(CBAM)などの制度が導入されることで、排出量の多い製品は不利になる可能性があります。直接輸出を行っていない企業であっても、大企業のサプライチェーンに属している場合には影響を受けることになります。
つまり、法的義務の有無にかかわらず、取引条件として対応が求められる時代に入りつつあるということです。
第一歩は排出量の把握から
では何をすればよいのか。その答えとして強調されたのが「見える化」です。数値の視える化はダイエットと同じで、体重を知らなければ減量することもできません。
企業の排出量は一般に次の三つに分類されます。
・スコープ1:燃料使用など自社から直接排出されるもの
・スコープ2:購入した電力などによる間接排出
・スコープ3:原材料調達や製品使用など、サプライチェーン全体の排出
特に電力使用量は多くの業種に共通しており、比較的取り組みやすい領域です。電気料金明細など既に存在するデータを活用することで、排出量の概算を算出することができます。
製品単位での排出量が求められる可能性
近年では企業全体だけでなく、製品やサービス単位での排出量を示す「カーボンフットプリント」への関心も高まっています。原材料の調達から製造、使用、廃棄までのライフサイクル全体を通じて排出量を把握する考え方です。
海外では製品に排出量が表示される例もあり、今後は国内でも取引条件として提示を求められる可能性があります。中小企業にとっても無関係ではなく、将来的な備えとして理解しておく必要があります。
大規模投資だけが対策ではない
脱炭素というと設備更新や再生可能エネルギーの導入を思い浮かべがちですが、講演では日常の運用改善による削減効果にも焦点が当てられました。
例えば、
・稼働していない設備の電源を切る
・電力使用のピークを分散する
・熱の漏れを防ぐ
・空調負荷を減らす環境を整える
こうした取り組みは必ずしも大きな投資を必要とせず、すぐに実行できる場合もあります。特に中小企業にとっては、現実的で効果的なアプローチといえます。
講師は「付加価値を生まないエネルギー使用を減らすことが重要」と述べ、夜間に稼働していない機械の待機電力などを具体例として挙げました。
支援制度を活用するという選択肢
国や東京都には、脱炭素経営を支援する補助制度や助成制度が多数用意されています。設備導入だけでなく、排出量の算定支援や計画策定支援など、取り組みの段階に応じた制度が整備されています。
こうした制度を活用することで、費用面や専門知識の不足といったハードルを下げながら取り組みを進めることが可能です。
相談会パート
現場ならではの具体的な悩みが共有される
休憩を挟んだ後半は、参加者からの質問に講師が直接回答する相談会として進行しました。ここでは、各企業が直面する現実的な課題が具体的に共有されました。
ある参加者からは、フランチャイズ形式の事業において、本部として加盟店舗の排出量削減をどのように進めればよいかという相談が寄せられました。店舗ごとに設備や立地条件が異なるため、一律の対策を求めることが難しいという問題です。
講師は、削減目標を押し付けるのではなく、実行可能な取り組みを共有しながら段階的に改善していくことが重要であると助言しました。
業種ごとに異なる「最初の一歩」
相談内容からは、業種によって取り組みの出発点が大きく異なることが改めて浮き彫りになりました。
・製造業:工場設備の稼働状況とエネルギー使用量の把握
・建設業:資材調達における環境配慮情報の整理
・運輸業:車両ごとの燃料消費量の管理
・小売・飲食業:店舗単位の電力使用量の把握
いずれも特別な技術が必要というよりは、既存データの整理や記録の習慣化から始められる内容です。相談会では、「すぐにできること」から着手する重要性が繰り返し示されました。
自社努力だけでは解決できない課題もある
将来的には電気自動車の普及や電源構成の変化など、社会全体の動向が企業の排出量にも影響します。
そのため、企業単独での努力だけでなく、長期的な視点での対応が必要になります。
講師は、無理に大規模投資を行うよりも、身近な無駄の削減を積み重ねながら、社会の変化に合わせて取り組みを進めていくことが現実的であるとまとめました。
おわりに
今回の相談会を通じて見えてきたのは、脱炭素への対応が一部の企業だけの課題ではなく、多摩地域の中小企業にとっても事業継続に関わる重要なテーマになりつつあるという現実です。
重要なのは、
・まず現状を把握する
・無駄なエネルギー使用を減らす
・支援制度を活用する
・実行可能な範囲から継続する
という段階的な取り組みで、無理なく継続していくことです。
このセミナーが企業の皆様にとって、脱炭素への取り組みをはじめるきっかけになっていれば幸いです。
ピコットエナジー株式会社
代表取締役 田村 健人 氏
アウトドアスポーツ関連メーカーでCFRP製品の生産技術、開発に従事しつつ、エネルギー管理士として、工場やビルのエネルギー管理も担当。
その経験を活かし2012年に独立後、大企業から中小企業まで様々な規模、ジャンルの企業向けに省エネ・脱炭素経営支援で活動。
エネルギー管理士、かつ、中小企業診断士でもあり、経営改善に効果がある支援を心がけてる。
今後もオープンイノベーションフィールド多摩 八王子館では多摩地域の中小企業の皆様にとって有益な情報を届けてまいりますので、足をお運びください。