はじめに
11月09日(木)、オープンイノベーションフィールド多摩八王子館にて、「ビジネスを加速させる官民連携活用 ~中小企業が知っておくべきメリットと八王子市の取り組み~」を実施いたしました。
本セミナーでは、株式会社官民連携事業研究所取締役の新村氏と、八王子市総合経営部経営改革課主査阿部田氏を講師としてお招きし、
官民連携のメリットデメリットや進める上でのマインドセットなどを中心にお話しいただきました。
1:官民連携の全体構造(新村氏パート)
1.官民連携が求められる背景
人口減少と財政悪化により、予算規模の縮小が進み、2040年には職員数が現在の半数になる可能性があると指摘されています。社会課題は複雑・多様化する中、財政の硬直化と職員削減により、現状の行政事務を維持することすら困難な状況に直面しています。行政単独での課題解決は限界を迎えており、新たなアプローチが求められています。
パーパス経営、エシカル消費の広がりにより、企業は社会課題解決を通じた新規ビジネス機会の創出と社会的信用力の向上を求めています。
新村氏は、自治体が抱える社会課題は民間企業にとって新たなビジネスの種となり得ると説明しました。例えば、飲酒運転という安全対策の課題がノンアルコールビールという新市場を生み出したように、社会課題解決の取り組みが企業の事業成長にもつながる可能性があります。
2. 官民連携の難しさと成功の鍵
そういった背景の中でも、官民連携は容易ではありません。
行政は2年1タームで動き、予算化を待って受発注をスタートするため2年が必要となります。また、公平性、前例主義、年度ごとの予算枠といった制約を強く受け、トライアンドエラーが許されない文化があります。一方、民間企業はスピードと成果を優先し、利益を前提に新規事業開発を攻めの姿勢で行います。この「言葉は通じるが思考が異なる」という感覚のずれが、連携の難しさにつながっています。
新村氏は、成功のためには「自社の製品を売り込む」のではなく、「営業ではなく共創マインド」で臨むことが重要だと強調しました。
具体的には、フルパッケージではなく「まず、小さくはじめる」ことが大切で、実証実験からスタートして結果を出すことで、データのフィードバック、自治体との信頼関係がスピード感を持って獲得できます。実務面では、行政の年度予算サイクルの把握や、部署ではなく「熱量のある職員」を見つけることが重要なポイントです。その自治体と連携したい理由と想いを明確にし、担当職員が「腹落ち」することで、事業の推進力が高まります。
2:八王子市の共創の実践(阿部田氏パート)
1. 八王子市の特徴と共創に適した環境
阿部田氏は、八王子市がどのように民間企業や大学との「共創」を推進しているかを紹介しています。八王子市は人口規模が大きく、製造業の事業所数が1,300を超え、大学・専門学校が21校立地するなど、多様なフィールドを持つ都市です。この特徴が、実証実験などの新規事業に適した環境を生み出しています。
2. 「共創の窓口」の設置と運用
2024年4月1日に市役所内に新設した「共創の窓口」。
この窓口は市内部の課題を集約して公開し、民間企業からの提案を一元的に受け付ける仕組みです。
提案形式は「テーマ型(市が公開した課題に対する提案)」と「フリー型(自由提案)」の2つがあり、開設から半年で40件を超える提案が寄せられています。
市は提案内容を確認したうえで関係部署との対話の場を設け、事業実施に向けて調整を行います。市の費用負担がない取り組みは比較的早期に実施できる可能性がある一方、市費用が発生する場合には予算化や公募手続きなどが必要であり、時間を要します。
3. 八王子市における共創の具体的事例
八王子市で生まれている民間企業との連携事例を複数紹介しています。
・ランドセルカバーの提供(スリーボンド社)
・スポーツクラブと連携した地域健康事業(メガロス社)
・高齢者向け健康ポイント制度「テクポ」の実証
これらは「地域課題の解決を軸に、企業の強みを活かす取り組み」であり、市としても価値を感じている事例です。
3:パネルディスカッション・質疑応答
パネルディスカッションでは、官民連携を進める際に重要となる実務的なポイントを、それぞれの視点から語っています。
まず、民間企業側には「プロダクトありきではなく、行政課題の改善を出発点にする」姿勢が求められます。
製造業の参加者からの質問に対し、新村氏は「機能や性能を伝えるだけでは刺さらない。既存の用途にこだわらず、行政課題に応じた新しい使い方を一緒に考えることが有効である」と回答しています。
また、シルバー人材センターからの質問に対しては、
「担当部署だけにアプローチするのではなく、企画・政策部門のような横断部署を起点にする」
「熱量のある職員を見つけ、そこから内部調整を進める」など、具体的な突破口を示しています。
さらに、講師陣は官民連携が単発ではなく「小さな実証から始め、信頼を積み重ねることで次の展開につながる」という共通認識を確認しています。行政にも民間にも制約があるなかで、対話を重ねながら進めることが、継続的な連携の実現に不可欠です。
まとめ
今回の3部構成の講演を通じて、官民連携は「行政の不足を企業が補う仕組み」ではなく、地域の社会課題を出発点に、双方の強みを掛け合わせて価値を生み出す取り組みであることをお伝えいただきました。
• 中小企業にとっては、新しい市場・実証の場
• スタートアップにとっては、実装フィールドが得られる
• 自治体にとっては、課題解決のための選択肢が広がる
• 市民にとっては、より良いサービスにつながる
地域の課題は、地域の未来をつくる出発点となる。
今回のセミナーが、その第一歩を踏み出すための実践的な視点と具体的な学びを得ていただく機会になっていれば幸いです。
株式会社官民連携事業研究所
取締役 管理部長
新村 直樹 氏
- 2013年株式会社ソフィアホールディングス取締役(JASDAQ:6942)を経て2016年3月に代表取締役に就任。
- 10社のグループ会社を統括しグループ全体のマネジメント業務、全体の経営戦略・経営計画の策定(中期・長期)の指揮、連結予算作成/予実管理等を主とし積極的に子会社の取締役としての事業に参画。
- またグループ全体でのコスト削減、業務効率化を実施し、グループシナジーを追求することにより、2年で連結売上高を25億から40億、4年連続営業赤字を初年度に1.5億円の黒字化を実現、翌年度も増益を達成。
総合経営部経営改革課主査
阿部田 直樹氏
2012年に八王子市役所に入庁。防災課、多文化共生推進課を経て、2024年4月から現職。
多様な主体との共創により様々な課題を解決していくため、
公民連携に関する相談・提案を受け付ける「共創の窓口」を2025年4月に開設。
民間事業者と市役所のつなぎ役として、八王子市における共創の推進に奮闘中。
今後もオープンイノベーションフィールド多摩 八王子館では多摩地域の中小企業の皆様にとって有益な情報を届けてまいりますので、足をお運びください。