ベント通信

  1. 八王子館トップ
  2. イベント通信
  3. 八王子館
  4. 未来をひらく「キカイ」のチカラ ―製造業から始まるインクルーシブ社会 ―開催レポート

未来をひらく「キカイ」のチカラ ―製造業から始まるインクルーシブ社会 ―開催レポート


はじめに

12月17日(水)、オープンイノベーションフィールド多摩八王子館にて、「未来をひらく“キカイ”のチカラ 〜製造業から始まるインクルーシブ社会〜」というイベントを実施いたしました。

本イベントではアシスティブ・テクノロジーの開発をリードするテクノツール株式会社 代表取締役 島田真太郎氏をお招きいたしました。語られたのは、福祉の理想論ではなく、ユーザーの声を起点にした製品開発のリアルです。ものづくりの前提を問い直し、「身体の状態次第で自由が阻害される社会を終わらせる」という強い意思が込められています。


キーワード:インクルーシブとは

インクルーシブとは、特定の人に「特別な配慮」をすることではありません。最初から多様な人が関われる前提で、製品や環境、仕組みを設計するという考え方です。合理的配慮を組み込むことで、誰もが力を発揮できる環境をつくる。それが、テクノツールのものづくりの思想です。


1.人ではなく、「前提」が壁になっている


一般的な製品設計は「両手の指が自由に動く」ことを前提にしています。しかし現実には、その前提に当てはまらない人がいます。神経難病や先天性疾患などにより、操作方法そのものが合わない人たちです。

島田氏は明言します。
「できないのは、人ではなく“前提”のほうだ。」

テクノツールの開発は、「この人はどこが動くのか」「その動きはどれほど正確なのか」という問いから始まります。


2.共創が生んだ公式ライセンス製品

テクノツール株式会社は3社共同により、Nintendo Switch®公式の障がいのある方向けコントローラーを開発しました。この製品は、テクノツール株式会社、ゲームメーカー、コントローラーのメーカー、ゲームプレイヤーや作業療法士といったユーザーとの共創による開発で誕生しました。

「もっと多くの人にゲームを楽しんでもらいたい」という想いを軸に、ユーザーの声を反映しながら、公式ライセンス品をつくれる品質力を発揮。国内外の規格対応や耐久性検証など、製造業ならではの技術力と、現場の知見が融合しました。
ゲームを諦めていた人に「遊ぶ自由」を取り戻し、ユーザー自身が開発のパートナーとなることで、製品の価値が高まっています。


3.環境が変わると、期待値が変わる

アームサポート「momo」は、腕の重さを支え、弱い力でも動作を可能にします。ALSなどで筋力が低下しても、食事や創作活動を自分のペースで行えるようになります。
姿勢が変わる。描ける範囲が広がる。その変化は、本人だけでなく、周囲の「できるはず」「任せられる」という認識を変えていきます。個人を変えようとしなくても、環境を変えればよい。この発想は、製造業にとっても示唆に富むものです。


4.「一緒につくる」という前提

テクノツールでは、社員12名のうち3名が重度の肢体不自由を持つ当事者です。

「Nothing about us without us(私たちのことを、私たち抜きで決めるな)」

障がいのある方を支援対象にとどめたままでは、本質的な製品開発はできない。当事者を意思決定と開発の中心に置く。それが、同社の一貫した姿勢です。


5.あえて示された現実的なブレーキ

福祉用具市場への参入は、おすすめしない――島田氏は率直に語ります。
制度に縛られた価格設定、複雑な商流、開発コストに見合わないリターン。社会的意義があることと、ビジネスとして続くことは同義ではありません。


6.福祉制度の外で勝負する


福祉用具への参入はコストに見合わない。参入ではなく、インクルーシブデザインを取り入れ、既存技術を活かして新しい顧客層を取り込むことで、新規顧客を開拓することが可能になると考えています。
一つは、障がいのある方“も”使える商品をつくること。弱い力で扱える、片手で操作できるといった工夫は、結果として誰にとっても使いやすい製品につながり、潜在的な顧客層を広げます。これは、福祉の枠を超えたビジネスチャンスになるのではないでしょうか。

もう一つは、雇用というアプローチ。中小企業だからこそ、一人ひとりと向き合える柔軟性があります。多様な人材を受け入れることで、組織に新しい視点が生まれ、製品開発にもプラスの循環が生まれます。


7.インクルージョンは、全員のための戦略


インクルーシブな環境は、困っている人のためだけのものではありません。前提を見直すことで、誰にとっても使いやすく、誰にとっても働きやすい環境が生まれます。


おわりに

本セミナーは、福祉の話でありながら、その本質は「ユーザーとともにつくるものづくり」にありました。テクノロジーは中立な道具です。そして、前提と設計思想次第で、人の役割も、社会との関係性も変えられます。
製造業から始まるインクルーシブ社会。それは理想論ではなく、すでに現場で始まっています。



テクノツール株式会社 代表取締役
島田真太郎氏





 

2012年4月、テクノツール株式会社に入社。
 Nintendo Switch公式の障害者向けコントローラー「Flex Controller」をはじめとするアシスティブ・テクノロジー(AT)の開発・普及に携わる。

2021年9月、代表取締役に就任。「本当の可能性に、アクセスする。」をコンセプトに掲げ、障害当事者や他分野の専門家との共創とテクノロジーの活用により、
障害者の社会参加を促進するプロジェクトを推進。  
2023年12月、横浜市にテレワークとATを活用した就労継続支援B型事業所「テクノベース」を開設し、肢体不自由者の就労機会拡大にも取り組んでいる。

■専門分野
 アシスティブ・テクノロジーの開発・普及、障害者の社会参加促進

■主な実績
 ・「Flex Controller」をはじめとするAT開発プロジェクト
 ・就労継続支援B型事業所「テクノベース」開設・運営


 


今後もオープンイノベーションフィールド多摩 八王子館では多摩地域の中小企業の皆様にとって有益な情報を届けてまいりますので、足をお運びください。


関連記事

から関連する記事を表示しています。