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協業で広げるビジネスの可能性― 中小企業経営者のための協業スタートガイド ―


はじめに

中小企業の経営環境が大きく変動する中で、「このまま自社だけで走り続けるのは難しい」と感じる場面は増えています。
人材育成の停滞、ノウハウ伝承の難しさ、IT化の遅れ……。どれも一社だけで解決しようとすると、時間もコストも膨らみ、限界にぶつかりがちなテーマです。
11月28日(金)に行われた今回のセミナーでは、金属加工の分野で製造受託・職人育成・研究開発の三つの事業を展開する 株式会社Creative Works 代表取締役・宮本卓氏 をお迎えし、町工場同士が協業することでどのように新たな価値を生み出してきたのか、そのリアルなプロセスを伺いました。


1.  協業の決意:なぜ今、協業なのか


宮本氏は、祖父の代から続く「宮本工業所」で職人として修行を積み、医療機器メーカーの製造を長く担ってきました。
しかし市場の変化により家業は解散。
培ってきた技術を途切れさせないために、宮本氏は2012年に Creative Works を立ち上げます。

起業当初は、「自社の技術に誇りはあるが、このまま自分の力だけで未来を描くのは難しい」という実感がありました。
「新しい仕事は、自分で取りに行かなくてはいけない」
この言葉が示すように、宮本氏にとって協業は、売上増加のための手段ではなく、「会社が前に進み続けるための選択肢を広げる行動」でした。


2. 外部企業との協業の模索:出会いが生んだ共通課題

協業の相手となったのは、足立区の町工場三社の仲間たちです。
宮本氏は一年間、積極的に外の世界へ出て、多くのイベントや勉強会、産業支援機関の交流の場に参加。
その中で出会った若手経営者と気軽に話すうち、月1回の集まりが自然に続き、深い関係へと発展していきました。

話し合いを重ねていくと、どの会社も同じような悩みを抱えていることがわかってきます。
新人育成が難しいことや、技術が属人的であること、生産管理やIT導入が後回しになってしまうこと。
設備投資にも限界があり、技術革新のスピードについていくのが難しいという課題も共通していました。

こうした「抱えている課題の重なり」が、協業の原点となりました。
誰かが強引に旗を振ったわけではなく、自然な会話の流れから、「一緒にやってみたら解決のスピードが少し上がるのではないか?」という気付きが生まれていったのです。


3.協業スタート:動き出した取り組み

協業の基本方針は非常にシンプルで、「一社では解決できないことに一緒に取り組む」ことでした。
最初に取りかかったのは、各社の強みと技術の棚卸しです。
切削加工やレーザー加工、板金や溶接、設計まで、分野がきれいに補完し合うことが見えてきました。
「この案件ならあの会社と」
「この工程はうちよりそちらのほうが得意」
という判断がしやすくなり、技術が会社の枠を越えて流れ始めます。

次に、助成金を活用して三社共通の生産管理システムを整備しました。
町工場では後回しになりがちなIT化も、協業によって“絶対にやったほうがいいこと”に変わっていきました。

技能伝承のデジタル化にも挑戦します。
溶接動作をデータとして可視化する「Doctor Welding」の開発はその象徴で、属人的だった技能を分析し、共有しやすくする仕組みづくりが進みました。

さらに、若手職人が他社に出向いて学ぶ「越境育成」もスタート。
自社では教えきれない領域を仲間の会社で補い合えるようになり、若手の成長スピードが目に見えて変わっていきます。
またベテラン職人同士も交流し、互いの知見を持ち寄る関係ができたことで、ベテランの働き方にも新しい選択肢が増えました。


4.現在の取り組みの成果と会社の未来

こうした取り組みが続けられた結果、三社の取り組みは大きな成果を生み出しました。
技術交流は深まり、案件ごとに「このつくり方なら一緒にやろう」と判断し合える関係が育ちました。
若手は越境育成を通じて多様な技術に触れ、これまでにないスピードで成長し、人材不足の緩和にもつながっています。
ベテラン職人にとっても“教える場”が増え、キャリアの幅が広がっていきました。

そして2025年には、足立区にガラス張りの溶接スタジオ「WELD PORT」が誕生しました。
ここは初心者から現役職人までが集まり、溶接や金属加工を開かれた環境で学べる場所であり、「町工場=閉ざされた場所」という既成概念を変える新しい拠点として注目されています。
宮本氏は今後について、「自分が現場にいなくても回る仕組みをつくりたい」「ものづくりの楽しさをもっと広げたい」と語り、協業と人材育成の両輪をさらに強化していく考えです。



5. まとめ:協業は“仲間づくり”から始まる

今回のセミナーで印象的だったのは、協業が利益の分配よりも、まず“仲間づくり”から始まっているという点です。
協業のきっかけは「課題の共有」であり、利益より先にルールを整えたことで信頼関係が育ちました。
技術やノウハウを開き合うことで、人材育成の課題も一社だけで抱え込まない仕組みが生まれています。
若手もベテランも会社の枠を越えて学び合い、教え合う環境ができてきました。





株式会社Creative Works
代表取締役
宮本 卓氏

  • 東京工業大学大学院修了 工学修士。専門は金属工学 
  • 大手鉄鋼メーカーにて7年間、研究開発から製造現場まで幅広く従事した後、実家である有限会社宮本工業所にて溶接の修行。2012年、独自のものづくりを発信する場としてopen_in_newCreative Worksを立ち上げる。 
  • 東京都内の金属加工会社3社が協働する「open_in_new東京町工場ものづくりのワ」に、立ち上げから事務局として参画。現在は現場技能・技術の支援、コーディネート役も務める。 
  • 東京都立城東職業能力開発センター溶接科講師歴8年。『open_in_new徹底図解 溶接の基本と作業のコツ』(ナツメ社)監修 
  • 平成24年度東京ものづくり若匠(溶接)認定 
  • 2女1男の父。趣味は宇宙開発。



 
 
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