はじめに
7月3日(木)、「オープンイノベーション時代に生きる中小企業のための知財戦略」というイベントを開催いたしました。
中小企業が他社との共同開発を進める際、多くの経営者が抱える不安の一つが「技術を盗まれるのではないか」という点です。
本セミナーではそんな悩みを解決するための考え方を二部構成にて、学んでいただきました。
第一部「鮫島氏パート」では、技術を収益化するためのメカニズムと国内におけるオープンイノベーション潮流についてお話しいただき、
第二部「多良氏パート」では、製品や技術をどう守っていくのか、安心して進めるための具体的ステップや契約時のポイントをお伝えいただきました。
1. 技術を収益化するためのメカニズムと知財の効能
技術を収益化するためには
技術を収益化するためには以下の4つのマネタイズ要件が必要です。
1. マーケティング:市場ニーズの把握とターゲット設定
2. 製品開発:ニーズに応える技術の具現化
3. 量産体制の整備:安定供給のための生産体制
4. 販路開拓:顧客への到達手段の確保
これらの要素が揃って初めて、技術は「ものづくり」や「ライセンス」により収益化につなげることができます。
契約と知財の役割
技術を収益化する過程では、契約が重要な役割を果たします。契約は「ビジネスの定義書」であり、第三者との協業において権利と義務を明確にするツールです。
せっかく商品を開発しても、類似商品が登場すると利益が減少してしまいます。
その際、知財(特許)は後発参入を防ぎ、利益率を維持するためのマーケットコントロール手段として機能します。
特に知財や特許は成果として伝わりやすいため、特許の数によってVCや大企業との交渉力が高まり、企業のブランディングや、資金調達に繋げることができる場合もあります。
ニッチトップ戦略と発明発掘
中小企業が競争力を持つためには、「ニッチトップ」を目指すことが有効です。市場規模が小さく、先行特許が少ない分野を狙い、開発の成果を必須特許として確立することで他社の参入を防ぐことができます。
また、発明というとハードルの高いイメージもありますが、必ずしも難しいものではなく、身近なユーザーの課題から発掘できる場合も多いです。Amazonの「ワンクリック特許」など、ユーザーの目線に立って課題を考え、解決手段を組み合わせることが発明の本質といえます。
皆さんも普段接している顧客の声や、自分が不便だと感じている何気ないことから、発明に繋がる課題を発掘してみましょう。
オープンイノベーションと知財戦略
オープンイノベーションはイノベーション創出主体と事業化主体が分離し、互いの弱みを補完することを指します。その際、どの特許が会社のコアとなるのか正しく認識できている、知財戦略が整っている企業ほど協業をスムーズに進めることができます。
以前は大企業が中小企業に対して取引の際に、独占や、バックグラウンドIP(知的財産権)の無償利用などを要求するといったことも見受けられました。
しかし昨今では、中小企業やスタートアップ企業の権利や競争力を守ることが業界全体の活性化に繋がるという認識が徐々に広がってきています。
2. 自社技術に新たな技術を受け入れる際の注意点
仮想事例:町工場と大手自動車メーカーの協業破綻
精密加工技術に強みを持つ「内田製作所」と、EV開発を進める大手自動車メーカー「鮫島モビリティ」の協業事例では、試作評価での高評価から量産委託へと進んだものの、設備投資後に仕様のズレが発覚し、最終的に協業解消となりました。
失敗の根本原因
• ビジョン・価値観の非共有:両社の目指す方向性が異なっていた
• 協業の前提のすり合わせ不足:具体的な条件や期待値の確認が不十分
• 判断基準の違い:品質重視vs コスト重視の価値観の相違
対策のポイントとしては「協業のゴールと役割の明確化」「技術・知財の契約による明文化」について、書面、口頭の両方を使い分けながらコミュニケーションを取ることが大切です。
秘密保持契約(NDA)の落とし穴
秘密保持契約を交わすだけで「安心」とは言い切れません。
実際には、誰が何を受け取ったかを記録し、定期的に見直さなければリスクは残り続けます。
NDAを交わす際は下記のポイントを必ず押さえておきましょう。
1. 秘密情報の範囲:契約期間内か、契約前後も含むか
2. 情報漏洩禁止:第三者への開示の可否と責任の所在
3. 目的外使用禁止:目的の定義が曖昧だとトラブルに
4. 存続期間:契約終了後も秘密保持義務が続くかどうか
技術コンタミ防止
共同開発が進むほど、自社技術とパートナー技術が入り混じり、権利の線引きが曖昧になりやすくなります。「情報開示の記録を残す」「技術の起源を明文化」するなど、自社の技術やアイデアが相手企業に不当に利用されないように注意しましょう。
成果帰属とライセンス設計
「この成果、誰のもの?」という疑問は、事業化を遅らせる大きな要因ですが、技術の性質に応じた柔軟な設定が重要です。例えば、加工技術は町工場に、自動車部品は大企業に帰属させるなど、分野別の帰属設定が効果的です。
単独帰属だと管理が明確な分、権利を行使できない企業が出てしまいます。
両方に帰属させる場合だと双方が権利を行使できますが出願や他社への譲渡等に制限がかかってしまうことがデメリットとなります。成果を事業の中でどう活用し、利益を出していきたいのかによって、帰属設定を交渉することが重要です。
まとめ
他社との協業は足りないリソースを補完し合うことができる大きなメリットがある一方、法務面での準備が不十分であれば、不利な立場に追い込まれるリスクがあります。
自社の持つ技術、特許の肝を理解しておくことが、協業する際に中小企業の技術と信頼を守る鍵となります。
本セミナーを通して、協業を実施する際に必要な知財戦略と具体的なリスクの抑え方について、学ぶ機会になっていれば幸いです。
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士
鮫島 正洋 氏
東京工業大学金属工学科卒業
- 藤倉電線㈱(現㈱フジクラ)にてエンジニア(電線材料の開発)、1992年に弁理士登録後、日本アイ・ビー・エム㈱にて知的財産業務を経て1999年弁護士登録。
- 2004年弁護士法人内田・鮫島法律事務所を設立、現在に至る。
- 弁護士業務の傍ら、知財戦略や知財マネジメント、知財政策など、法的・知財的な視点で多方面に向けた発言を行う。2012年知財功労賞受賞。
- 著書;「技術法務のススメ 第2版」(日本加除出版2022)〔共著〕、「オープンイノベーション時代の技術法務 スタートアップの知財戦略とベストプラクティス」(日本加除出版2024)〔共著〕など。
- 2011年直木賞受賞作品「下町ロケット」に登場する神谷弁護士のモデル。
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士
多良 翔理 氏
早稲田大学先進理工学部応用物理学科卒業後、東京大学法科大学院修了
- 司法修習(75期)を経て、2023年弁護士登録。
- 理系出身の強みを活かし、企業法務や紛争対応といった基本的な法務サービスに加え、
- 技術・ビジネスへの理解を基盤とした知財戦略の立案や研究機関・大学への支援にも携わる。
- 法務・知財・技術を横断的に捉えた実践的な助言を提供。
今後もオープンイノベーションフィールド多摩 八王子館では多摩地域の中小企業の皆様にとって有益な情報を届けてまいりますので、足をお運びください。